« 「つみきのいえ」 | トップページ | 「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」原作 »

2009年1月26日 (月)

「イントゥ・ザ・ワイルド」

Wild 前半はまるでアメリカン・ニューシネマのようだと思った。文明や物質的な価値を拒否してアラスカへと向かう主人公は破滅へ向かう「バニシング・ポイント」の主人公と重なった。主人公を突き動かしたのは両親の偽りの姿で、だから人間を拒否して一人で荒野の中で暮らすことになる。そして死の直前に主人公は「幸福はそれを人と分かち合った時に実現する」という結論に達する。その時に想起したのは両親との和解であり、旅の過程で知り合った人々との交流だった。一人では幸福にはなれない。そんな当たり前のことを過酷で孤独な生活の中で知ることになるわけだ。

一般的に見れば、主人公は若さと純粋さで誤った道を取ったことになるかもしれないが、監督のショーン・ペンはそれを肯定的にとらえた。放浪の旅に出ることを「誕生」にたとえ、悩み多き「思春期」を経て悟りの境地に至るという構成。主人公は再生を果たした後に死んでいくのだ。2時間28分の上映時間は少し長く、主人公の生き方に全面的に賛成もできないが、これは「モーターサイクル・ダイアリーズ」のようにロードムービーの形を取った青春映画と言える。役のために18キロ減量したエミール・ハーシュが実在した青年に確かなリアリティーを与えている。

クリストファー・マッカンドレス(エミール・ハーシュ)はエモリー大学を優秀な成績で卒業した後、両親(ウィリアム・ハート、マーシャ・ゲイ・ハーデン)に黙って放浪の旅に出る。一見、幸福そうに見える家庭は、実は両親の諍いが絶えなかった。両親は離婚はしなかったが、虚飾に満ちた生活にクリスは嫌気がさしたのだ。余った学資の2万4000ドルを寄付し、バックパックを背負って一文無しで行う旅。時折、アルバイトをしながら、アラスカを目指す。この映画で心に残るのはこの旅の過程で主人公が出会うさまざまな人たちとの交流の方にある。

クリスと同じ年頃の息子を持ち、2年間連絡が取れていない夫婦、農場の経営者、主人公に思いを寄せる少女、そして孤独な老人。夫婦と老人とクリスは疑似家族のような関係になり、心を通わせる。クリスはなぜこの過程で、一人では生きられないことに気づかなかったのだろう、という思いを強くする。きっと人間は幸福の中にいるときはそれに気づかないものなのだろう。ショーン・ペンはこの交流と、アラスカの荒野に廃棄された小さなバス(魔法のバスとクリスは名付ける)の中で孤独に暮らすクリスを交互に描き、クリスに寄り添ってその生き方と考え方をくっきりと浮かび上がらせている。それでもこれがハッピーエンドだったら、と思わずにはいられない。実際にあった話だから仕方がないが、主人公が死ななかったら映画の印象は随分違ったものになっていただろう。

孤独感をにじませた老人役のハル・ホルブルックは昨年のアカデミー賞で助演男優賞にノミネートされた。主人公に思いを寄せる美少女役のクリステン・スチュワートは「パニック・ルーム」でジョディ・フォスターの娘役を演じ、「ジャンパー」にも出ていたそうだ。

原作の「荒野へ」(集英社文庫)を読んでみたくなったが、amazonでは品切れのようだ。書店で探してみよう。

|

« 「つみきのいえ」 | トップページ | 「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」原作 »

2009年観賞映画」カテゴリの記事

コメント

パニック・ルームの娘役♪
それはまたひとつ観る楽しみが増えた。

投稿: 45 | 2009年1月26日 (月) 09時41分

予告編だけ観ると、若者の自分探しなんて今更~(w
なんて思ってしまいましたが、ちゃんと理由があるのですね。すごく共感してしまうかも・・・
それにしても、せっかく再生を果たしたのにそこで死んでしまうなんて、残念です。

お返事してなかったような気がしますが、「海角7号」、遅くなっても良いです。是非貸してくださいm__m

投稿: mk | 2009年1月26日 (月) 22時13分

>45さん
娘役なんて顔はさっぱり覚えてません(すぐにいなくなっちゃったし)が、良いですよ、クリステン・スチュワート。そんなに美人じゃないけど、雰囲気があります。

投稿: hiro | 2009年1月26日 (月) 22時53分

>mkさん
たぶん、若い人はすごく共感すると思います。
僕も「バニシング・ポイント」を見た中学校のころはすごく共感しました。
でも今は行方不明となった息子を心配する両親側の心情です(^^ゞ

投稿: hiro | 2009年1月26日 (月) 22時56分

今日観ました。
ほぼhiroさんと同じ感想でした。
こいつ、ここまで来んとわからんかったっちゃねぇ・・・シミジミ・・・って。

確かに、ここまで経験して生きて彼が帰ってこれていたら素敵な大人になってくれてたでしょうね。
だけど、こんな人を若者たちが英雄視しても困るなあ、とも思いました。

投稿: 45 | 2009年1月29日 (木) 20時27分

高校のころに読んですごく感銘を受けた本に「サハラに死す」があります。これはサハラ砂漠を単独で横断しようとして死んだ日本人青年を描いたノンフィクション。今思えば「イントゥ・ザ・ワイルド」と共通するところが多かったです。

なぜ「青年は荒野をめざす」のか。そこのところが分からないと、この映画に共感は持ちにくいのでしょう。僕らはかつては分かってましたが、今は分からなくなってしまったんですよ。

共感は持っても、英雄視はしないと思います。

投稿: hiro | 2009年1月29日 (木) 21時12分

この主人公に反発してしまう気持ちの中には、私にも彼と共通する甘さがあったから、だと思います・・・・


パニック・ルームの娘、覚えてないんですかー!
髪の毛ショート・カットで美少年って感じで男の子みたいだった♪
顔なんてあのまんまだった♪

投稿: 45 | 2009年1月29日 (木) 21時51分

まったく忘れてました。
↓に画像ありました。
http://info.movies.yahoo.co.jp/detail?ty=ph&id=237049&pid=view001&or=1&ra=2&us=1&usg=__O3QOBj7m8NwpwLoLinl8dhXngWk=
なんだか、ジョディ・フォスターと似てますね。

投稿: hiro | 2009年1月29日 (木) 23時32分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「イントゥ・ザ・ワイルド」:

« 「つみきのいえ」 | トップページ | 「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」原作 »