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2010年7月10日 (土)

「ロストクライム -閃光-」

「ロストクライム -閃光-」パンフレット  「プライド 運命の瞬間」以来12年ぶりの伊藤俊也監督作品で、3億円事件を題材にしたサスペンス。永瀬隼介の原作「閃光」を長坂秀佳と伊藤監督が脚色している。話の構成自体は悪くないと思うが、至る所に演出の細かい齟齬がある。それが集積して映画全体として面白みに欠ける作品になってしまった。12年間のブランクが悪い方に影響したのか。といっても、僕は伊藤俊也の作品に思い入れはないし、面白いと思った作品も少ない。相性とかそういう問題ではなく、この人、演出上のテクニックはあまりないと思う。社会派の監督でもなく、「さそり」のようなシャープなB級作品に本領を発揮するタイプなのだろう。

 隅田川で絞殺死体が発見される。定年を2カ月後に控えた刑事滝口(奥田瑛二)は捜査メンバーに名乗りを上げる。コンビを組むのは若手の片桐(渡辺大)。滝口が事件に関心を持ったのは殺された男葛木が3億円事件の容疑者の1人だったからだ。1968年12月10日、偽白バイ警官が現金輸送車から3億円を奪った事件。負傷者はなく、現金は保険会社が支払い、誰にも被害を及ぼさなかった(保険会社が一番の被害者か)。既に公訴時効が成立したが、滝口をはじめ捜査関係者は当時、複数の犯人グループを突き止めていた。それなのになぜ、逮捕しなかったのか。映画は事件の真相を徐々に明らかにしながら、現在もなお、真相を隠蔽しようとする警察上層部と事件に絡んだ連続殺人を描いていく。

 現在の連続殺人が過去の事件につながっていくというのはミステリでは極めてよくある設定だ。この映画(原作)が、そのスタイルを踏襲しているのは間違いではない。ただし、3億円事件の真実を描くわけではなく、単なる想像の産物なのだから、本来ならば、連続殺人の捜査をしていたら、偶然3億円事件に行き当たったという構成の方が良かったかもしれない。それにこの事件の真相に驚きはなく、警察の隠蔽の理由も説得力を欠く。そう思えるのは映画に力がないからだろう。ドラマの構築が弱いのだ。個人と組織の対立の構図を描く映画がかつて好きだった。この映画もその構図に当てはまるのだけれど、演出が大仰で古いパターンのように思え、これが組織ぐるみで隠蔽に値するような内容かと疑問を持ってしまうのだ。

 今年60歳だからこの役柄も不自然ではないが、奥田瑛二は定年前には見えず、その演技も僕には全然うまいとは思えない。渡辺謙の息子、渡辺大は色に染まっていないのが良いところだろうが、主役を張るほどの貫録はない。他のキャストはかたせ梨乃、宅麻伸、中田喜子、烏丸せつ子、夏八木勲ら。これは70年代の映画か、と思えるような布陣だ。68年の事件を題材にしているため、というよりは監督の趣味なのではないかと思う。かたせ、中田にはそれぞれラブシーンがある。どちらも不要に思えた。監督は娯楽映画のサービス精神でこういうシーンを入れたのかもしれない。その考えも古い。

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